労働者がA事業場でもB事業場でも雇用される場合には、原則として、その労働者を使用する全ての使用者が、A事業場における労働時間とB事業場における労働時間を通算して管理する必要があります(労働基準法(以下「労基法」)第38条第1項、労働基準局長通達(昭和23年5月14日基発第769号))。
労働時間を通算した結果、法定労働時間(労基法第32条、第40条)を超えて労働させる場合には、使用者は、自院で発生する法定時間外労働について、あらかじめ36(サブロク)協定の締結・届出の必要があります。
また、使用者は、労働時間を通算して法定労働時間を超えた時間数が、労基法第36条第6項第2号及び第3号に定める時間外労働の上限規制(いわゆる、単月 100 時間未満、複数月平均 80 時間以内の要件)の範囲内(医師は2024年3月31日まで上限規制は適用されず、それ以降の取扱いは今後省令で定めることとされています)となるようにする必要があります。
加えて、使用者は、労働時間を通算して法定労働時間を超えた時間数のうち自ら労働させた時間について、割増賃金(労基法第37条第1項)を支払う必要があります。
これらの労基法上の義務を負うのは、当該労働者を使用することにより、法定労働時間を超えて当該労働者を労働させるに至った(すなわち、それぞれの法定外労働時間を発生させた)使用者です。
具体的には、まず労働契約の締結の先後の順に所定労働時間を通算し、次に所定外労働(所定労働日における所定外労働と、所定休日における労働時間)の発生順に所定外労働時間を通算することによって、労働時間の通算を行い、労基法が適用されます。
なお、労基法第36条第6項第2号及び第3号に定める時間外労働の上限規制については、通算するべき所定外労働として、所定労働日における所定外労働と、所定休日における労働時間に加えて、自らの事業場の法定休日における労働時間についても、これらの全てを発生順に所定外労働時間として通算することによって労働時間の通算を行い、労働時間の上限規制を遵守する必要があります。
整理すると、例えば、A事業場の使用者Aと先に労働契約を締結している労働者が、B事業場の使用者Bと新たに労働契約を締結して副業・兼業を行う場合の労働時間の通算の順序は、①、②、③の順となります。
① A事業場における所定労働時間
② B事業場における所定労働時間
副業・兼業の開始前に、まずは①と②を通算します。通算の結果、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間(通常の労働時間制度の場合は1週40時間、1日8時間)を超える部分がある場合、この法定労働時間を超える部分は法定時間外労働となります。
また、副業・兼業の開始後に、使用者Bは、この法定労働時間を超える部分のうち、自ら労働させた時間について、時間外労働の割増賃金を支払う必要があります。
③ A事業場における所定外労働時間又はB事業場における所定外労働時間(実際に行われた順に通算)
使用者A及び使用者Bは、それぞれ、①と②の通算(所定労働時間の通算)の後、副業・兼業の開始後に、A事業場における所定外労働時間とB事業場における所定外労働時間を、所定外労働が行われる順に通算します。
通算の結果、A事業場又はB事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分がある場合、それぞれの法定労働時間を超える部分はそれぞれ法定時間外労働となります。
すなわち、A事業場では、「上記の通算の結果、A事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分」が法定時間外労働となり、B事業場では、「上記の通算の結果、B事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分」が法定時間外労働となります。
そして、使用者A及び使用者Bは、それぞれ、この法定労働時間を超える部分のうち、自ら労働させた時間について、時間外労働の割増賃金を支払う必要があります。
例えば、先に契約したA事業場(法定労働時間は週40時間)において週30時間、後に契約したB事業場(法定労働時間は週44時間)において週15時間の所定労働時間がある場合において、労働者がA事業場及びB事業場で労働契約のとおり労働した場合、1週間の労働時間は通算して45時間になりますが、A事業場においては、5時間が時間外労働(ただし、Aが時間外労働を行わせることにはなりませんので、使用者Aにおいて36協定の締結や割増賃金の支払は不要(所定労働時間のみであれば))、B事業場においては、1時間が時間外労働(Bが1時間の時間外労働を行わせることになりますので、使用者Bにおいて36協定の締結や割増賃金の支払が必要)となります。
なお、更に所定外労働が発生した場合は、A事業場においては5時間の時間外労働の次に、B事業場においては1時間の時間外労働の次に、それぞれ、所定外労働の発生順に所定外労働時間を通算することとなります。
詳しくは、以下の資料が参考になります。
(副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説)
(「副業・兼業の促進に関するガイドライン」Q&A)